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2008年2月

2008年2月18日 (月)

『セレンディピティ』

『セレンディピティ』 宮永博史 祥伝社

「偶然をとらえて、幸福にかえる力」を「セレンディピティ」と言います。

「広辞苑には、次のような説明があります。(セレンディピティとは)おとぎ話『セロンディップ(セイロン)の3王子』の主人公が持っていた、思わぬものを偶然に発見する力。幸運を招きよせる力。」

もともとは、技術開発や研究開発の現場で使われてきた言葉のようですが、ここへきて、それ以外のビジネスの場でも使われるようになってきた。僕なんかが思うに、クリエイティブディレクションとは、まさにこの「セレンディピティ」をどう掴むかに尽きるな、と思うわけです。タイトルを読むだけで内容は想像できると思うので、関係ありそうなタイトルを、ちょっと長くなりますが、列挙してみますね。

 失敗のあとからやってくる「セレンディピティ」

 地味な作業を来る日も来る日も続ける

 小さな変化を見逃さない

 「たまたま」の大切さ

 セレンディピティは、たまにやってくる気まぐれな小人さん

 幸運はみんなのところに同じように降り注ぐ

 当たり前のことを当たり前に実行する

 「無関係なもの」を関連づけてみる

 異分野のプロを集めろ

 「素人発想」プラス「玄人実行」が有効

 「こんなことができたらいいな」から始める

 「想定外」のことを考えていることがはるかに有効

 「見えざる顧客」を見つけたものだけが生き残る

 他の人には見えない宝物に気づく人

 「邪道」が暗礁に乗り上げた研究を救う

 偶然のひらめきをモノにする翻訳力

 誰かが見つけてくれるのをじっと待つ宝物

 毎月20ジャンル、20冊の読書

 コミュニケーション能力を磨くロジカルシンキング

 予測するということは、変化に気づくということ

 社員の絆が、組織のセレンディピティを生み出す  

僕らクリエイティブディレクターは、お得意先から大きな課題を与えられ、それを解決するために、各方面の専門のスタッフを集めます。いまどき、CM1本で解決される課題なんて、少ないですもんね。会議では、それぞれの専門性のもと、いろいろな角度から、たくさんのソリューションが提案されます。提案のひとつひとつは、まだまだ可能性の芽だったり、なにか少し物足りない感じだったり、微妙に芯をはずしていたりします。もちろん、煮ても焼いても食えないアイディアもある。そこに集まる有象無象のアイディアを組み合わせ、融合させ、化学反応を繰り返しながら、「最終的な成功の物語」をつくっていく。クリエイティブディレクターというと、何となくセンスが求められて、感覚的なことだけ言っているイメージがあるかもしれませんが、まったくもって逆。全スタッフが納得するような、論理的にも筋の通ったことが言えなければ勤まらないし、ファシリテーション能力も求められる。そして、この本で言う「セレンディピティ」が、とても重要なんです。

ものより、ものを見る目。

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2008年2月 4日 (月)

『かもめ食堂』『めがね』

DVD『かもめ食堂』 荻上直子監督(2006年作品)

主演の小林聡美さんが、とても素敵な映画でした。ヘルシンキに旅して、そこに「食堂」を開く日本人女性のお話。いわゆる、「女性ひとり旅もの」ですね。いろいろな女性たちが、その「食堂」を訪れてくる。特に何かが起きるわけでもなく、淡々とした日常が続いていくだけ。事件といえるのは、夫との別れ話でお酒に溺れる女性をみんなで助けるとか、店の前の主人が、忘れ物を取りに忍び込んでくるぐらい、っていうか、あまり大きな事件が起きると、「女性ひとり旅もの」は成立しない。サスペンスものになっちゃう(笑)。

原作は群ようこさん。共演は片桐はいりさんと、もたいまさこさん。「やっぱり猫が好き」的なものに、ヘルシンキの空気と言葉が混ざりこんで、おいしそうな料理シーンも独特で、全体として新しい世界観、空気感を持った映画になっています。

小林聡美さんは、自分のセリフの言い終わりに表情を入れてくる女優さんで、そこが彼女の上手さでもあるわけですが、僕はそこがやや苦手で、女優としてもある「軽さ」を感じさせていたように思います。『かもめ食堂』では、そういった(やや過剰な)表情を無くしたせいで、すごく堂々とした女優さんに感じられました。

DVD『めがね』 荻上直子監督(2007年作品)

監督、主演が『かもめ食堂』と同じコンビによる、これまた「女性ひとり旅もの」。訪れる人が極端に少ない南の島に旅して、そこに住む人たちや、島の景色や空気に、次第にココロ癒されていくというお話。癒される、じゃないですね。この映画の場合、「たそがれる」でしたね。この島が好きな人たちは、人生を「たそがれる」ために、この島を訪れる。一日中何もせず、ただ「たそがれる」ことが旅の目的。主人公は、最初、それを理解できずに戸惑うわけですが、時がたち、やがて自分も「たそがれ」仲間に入っていく。

『かもめ食堂』でも『めがね』でも、「女性たちが、何故ここへ来たのか」は一切語られない。きっと、何かに疲れ、傷つき、悲しみ…そういったことがあっただろうことは確かなんだけど、多くを語らない。実際、ひとり旅をする女性たちは、あまり突っ込んだ話はしないらしいんですね。仲良くなれば別だろうけれど、最初は、ひとり旅の理由なんて語らない。お互いを、「さんづけ」で呼び合って、ちょっと距離のある感じで。そういったリアリティが、映画にも上手に出ています。

タイトルの「めがね」が、頑張って疲れちゃった女性たちを語る小道具になっているのですが、さすがにちょっとわかりやす過ぎるような気がしましたが…そのへんを差し引いても、いい映画だと思いました。

でもさぁ、女性はいいよね。南の島やら温泉やらヘルシンキやらがあってさ。あ、おっさんたちにも、居酒屋があった!

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2008年2月 3日 (日)

『四畳半神話体系』『ホルモー六景』

『四畳半神話体系』森見登美彦著 太田出版

ちょっとした決断によって、人生は大きく左右される、か?否。どんな決断をしようが、案外と、同じような人生を送るんじゃないの(笑)、というお話。(以下、ネタバレ注意→)多くは語りませんが、第3章まで読んで、「なんだまた同じかよ」と思い、「もういいよ」と第4章を諦めることで、多くの読者が大きな後悔をしていることでしょう。騙されたと思って最後まで読むと、意外にコクのあるお話に遭遇できます。森美登美彦氏が繰り出す「小技」のファンとして、この本かなり好きです。 

森見登美彦氏はブログまで面白い。客観的な立場で、「森美氏はこう言った。こう感じている。」などと記述しているが、本人であることは明白(笑)。http://d.hatena.ne.jp/Tomio/

『ホルモー六景』万城目学著 角川書店

万城目(まきめ)学氏のヒット小説『鴨川ホルモー』のスピンオフストーリー。何百年も伝わる「ホルモー」という謎の行事をめぐる、荒唐無稽なお話なんだけれど、よくできたラブストーリーだったりもして、僕は単純に楽しめました。(以下、ネタバレ注意→)5話目かな。本能寺の変に遭遇する若い武士と、イケてない女学生との時空を超えたラブストーリーには、ちょっと泣けましたし。玉木宏主演のテレビドラマ『鹿男あおによし』も、万城目氏の作品(直木賞候補になったっけ?)ですね。

2作品とも、京都を舞台にした大学生のお話です。どちらもファンタジー小説と呼ばれる、実際には有り得ない、ある種「アホらしい」お話。でも、京都を舞台にすることで、この「アホらしい」お話も、なにか深みのある、重みがある小説に感じられるから不思議です。「大量の黒い蛾の大群が、糺の森(ただすのもり)あたりから飛来する」から、深い話になるのであって、「代々木上原あたりから飛来した」りすると、ちょっとおしゃれになっちゃったり(笑)、蛾の色もシロかったり(わぁ、キレイ)。

こたつで日本酒などをやりつつ、(笑)つつ、ページをめくりつつ、「アホらし」とつぶやく幸せ。外は雪だし。

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2008年2月 2日 (土)

『センセイの鞄』『人は思い出にのみ嫉妬する』

『センセイの鞄』川上弘美 平凡社

居酒屋で出会った、高校時代のセンセイに恋する物語。WOWWOWのドラマにもなった川上弘美のヒット作です。主人公は今で言う、「おひとりさま」を楽しむ、恋にはちょっと不器用な、40歳を目前にした女性。お酒の飲み方やつまみの趣味が似てる、そんなところから、なんとなくセンセイのことが好きになっていく。その恋は淡々としていて、若者の恋のように焦るわけでもなく、ゆったり静かに深まっていく。亡くなった奥さんに対するセンセイの思いまで、大切にしようとする主人公。逆に、自分の人生が残り少ないことで、主人公を悲しませるのではないかと、心配するセンセイ。今、目の前にいる相手のことだけじゃなく、相手の過去や未来をも大切にしようとする、そんな大人の素敵な恋が描かれています。

『人は思い出にのみ嫉妬する』辻仁成 光文社

一方こちらの小説で描かれているのは、人を愛するが故に、その人の過去(他の人との思い出)に嫉妬してしまう、ある意味非常に子供っぽい恋愛。実際にあった知人の話を脚色して書いた、と著者があとがきで語っています。ドロドロの4角関係の結末は、自殺1名、自殺未遂1名、サナトリウム療養1名、というかなり悲惨なものです。「人を好きになるのは、その人の思い出になりたいからよ。自分の魂を相手の心の中に預けるということは、つまり、率先して、思い出になる、ということでしょ。その人のいい思い出になることができれば、人は永遠を生きることができる。たとえ早くに死んだとしても」この言葉は、好きな人を残して自殺しちゃう女性の言葉。一見理屈が通っているようで、実はとても自分勝手な考え。勝手に思い出を押し付けられて、残された人はどうなる?『センセイの鞄』のふたりを見習いなさい、と突っ込んだ広告深夜族であった。

「思い出は厄介だが、人間が死ぬまで持ち続けることの出来る宝物である」

思い出が宝物になるかどうかは、その人たち次第。

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